2005.1.6〜2005.1.12
1元=約13円です

1月11日 あーあ、もうおしまいかぁ。
 翌日帰国なので、実質的には最後の日。

 前日、Yさんに自転車を返してしまったのと、近所にでっかいスーパーがあるらしいのでそこで見学がてら買物でもして、1日をつぶす予定。問題はじょーちゃんが浦東の東方名珠にある歴史陳列館へ行きたいと言っていること。いや私も決して嫌いではないんだけど、河を渡ってまで行くところじゃあないと常々思っているだけに、何となく腰が重いのだ。まあ、行き当たりばったりでも何とかなるべ(早い話が、何とかごまかして行けないことにしたいらしい。鬼だね)。

 朝食を終えたところで、Yさんがホテルの部屋を見学がてら遊びに来る。ご主人の出張にしばしば同行して、世界あちこちのホテルを見ている彼女は、「この値段でこの内装はかなりお得よね〜。イタリアの5つ星と雰囲気はそんなに変わらないわ」と盛んに感心していた。サービスは到底5つ星とはいかないけどね。

 3人でホテルを出て、南京西路へじょーちゃんの表演服(武術大会の時に着る服)を取りに行く。東路ほどではないけど、西路も人出でごった返し。上海は確かに人口が多いところだけど、ちょっと前はこんなことなかったんだけどなあ。何だか今は、どこを歩いても人だらけで、人込みが嫌いな私はちょっと辟易。それだけ人口が増えているとも、旅行なり出張なりでやってくる人が増えたとも言える。私が住んでた頃は、新婚旅行や出張で「旅行証」でも発行されない限り、住所地以外の地方に行くことが難しい時代だったから当たり前か。おまけに今は、外国人の数もハンパではないし。外国人とは言えないけど、台湾人なぞ何と30万人もいるそうじゃあないですか。台湾人だけで政令指定都市ができるだけの人数がいるって、凄いことだと思うのだけど。

 ……っていうのはある意味文字量稼ぎだったりする。つーのも、旅行からはや半年、最後の日のことを殆ど憶えていないのだ。じゃあもっと早く書けよって? そのとーりっ!

 さて、気を取り直して続き。ホテルでもたもたしていたこともあって、表演服を取ったらもうお昼を回っていた。せっかく近くにいることだし、ということで、上海ナイズされた四川料理の老舗、梅龍鎮と、上海料理(というか淮楊菜)の老舗、緑楊邨のどっちにするか、一瞬迷ったけど、Yさんの「梅龍鎮、最近えらく評判悪いですよ〜」という言葉に従い、緑楊邨にする。
 実は私、緑楊邨は何度も通りがかっているのに入るのは初めてなのだ。緑の外壁が印象的なレストランだけど、ひとりで入るにはポーションが多いし、さりとて改まって予約を入れてまで来るところという印象もなかったので、機会を逸していたというべきなのか、単なる無精のなせるわざなのか。
 結論から言うと、お味は思いのほか良かった。私は素材の冒険をし、盛りつけにこだわったヌーベル・キュイジーヌ的なものよりも、地元の人間がむかしから食べていたような、コンサバな雰囲気を持つ食べものが好きなのだけど、老舗だけあって、その条件にはぴったり合致していた。老鶏湯(丸鶏のスープ)、焼麺(上海味の醤油味焼きそば)、緑楊豆腐(この店名物の、高湯で上品に煮た豆腐)、四喜[火孝]麩(発酵グルテンの甘辛煮)という、バランスも考えず、好きなもんだけ適当に頼んだムチャクチャメニューだったにも関わらず、きちんと料理しているな、という印象があった。見事にダシが出尽くしていて、ただのだしがらになった鶏が丸ごと入ってくるスープなどは、昼食にしてはかなりぜいたくな選択(確か100元もした!)だったんだけど、それに見合うだけのものはあったと思う。席家花園、圓苑、新吉士などの新興上海料理店と、小東門の徳興館やこの緑楊邨など老舗との食べ比べをやってみるのも面白いかも、とふと思う。つーかみなさまオススメです。折角上海に来たのだから、存分に上海料理を味わっていただきたい。

 Yさんも私も上海の街をとぼとぼ歩くのが大好きなので、やむを得ない移動以外は、気付くとかなりの距離を歩いてしまっている。この日も「とりあえずホテルに戻ろう」と地下鉄で江蘇路駅まで戻ったものの、「あ、この道雰囲気良さそうじゃない」と、どちらともなく言いだして、裏道にふらふら迷い込んだり、目に付いた店に片っ端から入ってみたりするのはいつものお約束。武田泰淳が住んでいた家の近く(
*1)を通り、ホテルに近い大型スーパーの棚をくまなく冷やかしたりと、よくもまあ飽きもせずに、と1日を振り返るたびにあきれるばかりだ。この2人に黙って付き合うじょーちゃんも大したもんだが。

 さすがに足が棒になりかけた頃、武夷路に「hito cafe」なる新しいカフェを発見。ガラス張りの店内からは、向かいのレンガ造りの洋館(
*2)が見わたせて、なかなかに居心地が良い。禁煙、喫煙がガラス扉で隔離されているのもなかなか今風である。じょーちゃんはチョコレート、私はヘーゼルナッツラテを注文すると、ラテのミルクには模様が描かれていた(*3)。さて、このレベルがいつまで保てるのか。次回の来訪が楽しみだが、その時までまだあるのかな。場所もそんなにいいとは言えないし…。

 居心地の良いソファと程よい暖房にすっかり根が生えてしまい、歴史陳列館のことは忘れたふりをしていたのだが、じょーちゃんはしっかり憶えている。すでに夕刻だというのに、1日歩きまくっているというのに、これから行こうと言って聞かない。Yさんとホテル前で別れ、とりあえずホテルに戻って考えようよと説得する。

 ネットで陳列館の閉館時間を調べてみると、何と22時。ということは、今から行っても余裕で間に合うではないか。これはもう腹を決めるしかあるまい。地下鉄でも行けるけど、ラッシュの時間帯はすでに過ぎているし、えーいタクシーを奮発して一気に浦東まで行ってしまえ!

 というわけで、あっという間に到着。陳列館でじょーちゃんはおおはしゃぎ。ここは上海の歴史風俗を実物大の模型やジオラマで見せましょうという趣向の施設である。ジオラマ好きの奴にとっては最高の遊び場で、上海で一番来たかったところ。それを知りつつ忘れたことにしようと思う私も、大した薄情者である。
 が、どこかで改修工事をやっているらしく、途中から強烈なシンナーのニオイに頭が痛くなる。じょーちゃんも同様らしく、後半は鼻をつまんで大急ぎで走り抜けた。

 陳列館を出たらすでに9時。夕ご飯も食べていない。最後の晩餐なのだから、ちょっと奮発したいところだけど、すでにそんな店を探す気力も、浦東の土地勘も全くない。とりあえず浦西に戻って考えようと、南京東路まで出たはいいが、それでも何も思いつかない情けなさ。じょーちゃんもさすがに疲れているらしく、もうどうでも良くなって、目に付いたケンタッキーに飛び込んで、何ともトホホな最後の晩餐となってしまった。

 翌日、7時にホテルを出発し、ラッシュ前の高架を、タクシーで一気に浦東空港まで飛ばす。1月の上海、確かに寒かったけど、おおむね天気にも恵まれて、快適な旅程だったのでは。でもやっぱり、今度はじょーちゃん抜きで思う存分遊びたいな、と思う、どこまでいっても薄情な母親なのだった。


おわり

*1 武田泰淳は「上海にて」で「フランス租界のえらくカッコイイ洋館」に住んでたと書いてた気がする。でもここ、共同租界なんですけど……。引っ越したのかなあ。

*2 hito cafeから見える洋館。このへんは長寧区に属していて、老房子(古い家)不動産市場では、一番不動産価値が低い地域で、どちらかというと私も軽視していた地域なんだが、武夷路付近は再開発の手があんまり入っておらず、しかも、結構いい洋館がたくさん残っていてちょっと見直した。次回はもうちょっと丁寧にこのへんを歩いてみたいもんだ。

*3 これはYさんのキャラメルラテ。バリスタやってた人でもいるのか……。この店も多分台湾人経営。

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