|
|
|
| 1月9日 じってんしゃじってんしゃ、たのし〜な〜♪ |
自転車日和の晴天。風さえ吹かなければ、最高の1日が過ごせそう。
1階の食堂で、2年前と全く同じ内容の朝食(野菜まんか肉まん1個、おかゆ、ゆで卵、ザーサイ)の朝食をとり、地図とにらめっこしてどこに行くか思案する。なんて言っても、結局は「足の向くまま気の向くまま」になることは確実なんだけど、とりあえず前から行ってみたかった、新華路にある「外国弄堂」(*1)に行こうと思う。
「上海歴史ガイドブック」によると、外国弄堂はこんなところだ。
「1925年、付近の越界築路の建設にともなって、英商普益地産公司が開発した高級住宅地。2階建て花園住宅29棟、各国領事らの住宅となる。(中略)J.G.バラードの自伝的小説『太陽の帝国』の主人公ジムのアマースト路の邸宅はこのあたりになるか」
アマースト路は現在の新華路。高級住宅街の多いフランス租界の西端にあり、雰囲気のいい洋館が建ち並ぶ、散歩にもってこいの道だ。
目的の外国弄堂は高い塀に囲まれていて、入口には門衛がいた。中に住む人たちは、ある程度の地位を持った人たちなのではないかと思う。こういうところは往々にして部外者は追い出されるものだが、「行けるところまで行って、止められたらその時に考える」中国式のやり方に倣い、素知らぬ顔をして自転車に乗ったまま門をくぐると、呼び止められることもなく、すんなり中に入ることができた。
ゲートからまっすぐに伸びる道の両わきに、レンガ造りの家が建ち並ぶ。奥に進むと道が分かれているものの、迷うほど複雑ではない。日本の分譲住宅みたいに同じ建物が並んでいるのかと思ったら、大きさもつくりも全く違う。だけど贅を凝らしたこだわりの邸宅、という感じはあまりしなくて、領事なんかが住む家にしては質素だなあ、という印象がある(*2)。
散歩気分で自転車を降り、じょーちゃんと話しながら歩いていると、日本語に気付いた犬の散歩中のおじさんに声をかけられた。
おじさんはこの弄堂の奥にある集合住宅に住んでいるという。そういえば弄堂の奥に雰囲気ぶち壊しの5階建てくらいの灰色のアパートがあったっけ。聞くとおじさんは軍関係者らしい。あのアパートは解放軍の持ち物だったのかと思うと、邸宅を壊してまで無愛想なアパートをこの場所につくる理由に納得がいく。
中国では、軍関係施設への出入りにとても厳しいから、怒られてつまみ出されるのかと思ったら、親切にも案内してやると言うが、一方「しかし何だってこんな大したことない住宅を見に来るのか」と盛んに不思議がる。「ボロい建物」という意味ではなく、「造作が地味で、見るべき装飾もない建物なのになぜ」と言いたいらしい。
案内され、建物の内部にも進入してみた。おじさんの言葉を裏付けるように、階段の手すりに彫り物がしてあるわけでもなく、玄関ポーチに美しいモザイクのタイルが貼ってあるわけでも、窓がステンドグラスであるわけでもない。地味だ。そしてつまらない。この洋館も例に漏れず1戸を数家族で使っているので、共有部分のバスルーム(*3)を見ることができたが、バスタブといい洗面台といいメディスンボックスといい、殺風景なことこの上ない。
「な、オレの言った通りだろ?」おじさんは満足げだ。「上海の古い建物を見るのが好き」と言ったら、我が意を得たりという顔でうなずき、「政府は突貫工事で高層ビルをぼんぼん建てやがる。景観なんか考えちゃいない。当然基礎工事もいい加減だ。上海の地盤の弱さはあんたも知ってるだろ? 唐山地震クラスが起きようもんなら、上海はおしまいだよ」と嘆息した。見かけによらずこのおじさん、美しいものが好きらしい。ちょっと前までは「古いものはボロいもの」とひと括りに斬り捨てていた人々が、古さの中に美しさを見つけ出す心を持ちはじめたことが、私には何より嬉しかった。
「日本人にももっと上海の景観保護を訴えてくれよ。頼んだよ」と何度も繰り返すおじさんにお礼を言って、外国弄堂をあとにする。時計を見るともう昼どきだ。じょーちゃんの腹減ったコールが始まる前に、上海で買ったグルメ本に載っていた「富春小籠」に行ってみようと思う。
富春小籠は、むかしながらの店舗兼住宅の長屋が建ち並ぶ一帯にあった。無駄足を踏まなかったことにほっとする。というのも、このグルメ本、結構新しいくせに、すでに閉店してたりオーナーチェンジでメニューが総変わりしてる店がすごく多いのだ。
食券を買い、混み混みの店内でようやく席を確保する。看板の小籠は、1籠(セイロ)が4つと少ないけど、小吃類の種類が多くて、特に甘い小吃がたくさんあるのが珍しいし嬉しい。どれも1つから食べられるから、大学生風の女の子がふらりと立ち寄り、小籠1籠にエッグタルトと西米露(タピオカココナッツミルク)で昼食をとったりしている。私たちは小籠2籠に、春巻1皿、上湯豆苗(豆苗のスープ煮)、スプライト(*4)を注文した。23元。豆苗が山盛りなのにはビビったが、じょーちゃんが美味い美味いとむさぼり食い、あっという間に更地にしてしまったのにはさらにびっくり。小籠包はあっさり系で、こちらもおいしくいただいた。こういう店が近くにあったら、3日にあげず通うのに。
富春小籠 愚園路650号
天気が崩れる気配もないし、風もあまりない。と、「公園に行って広いところで深呼吸したい」と、10歳の子供とは思えん年寄り臭いことをじょーちゃんが言いだしたので、ゼスフィールド公園(現・中山公園)に向けペダルをこぐ。確か池もあったはずだから、ボート漕ぎでもして午後を過ごそう。
日曜ということもあり、公園内外には人が溢れているが、考えてみれば、中国の公園に足を踏み入れたは10年ぶりくらいだ。
中国の公園はチケットを買って「わざわざ」入園する。料金はどこも1元程度で、夕方になるとほとんどの公園が閉まるから、エッチの場所にはなりにくい。老人天国で、太極拳やら将棋やら、はては京劇をうなるグループやらと、敷地のあちこちでクラブ活動よろしく老人たちが遊んでいる。
「電動式」ボートを借りて、狭い池を巡る(*5)。太鼓橋の下など、すれ違うのもやっとという場所に来ても、中国人は譲らない。当然、ぶつかる。というか、広いところでもわざわざぶつかりに来る。そして喜んでいる。遊園地にある何かのアトラクションと勘違いしているらしい。転覆して濁った水に飲み込まれる時にはじめて「アイヨー」と後悔するんだろうな、この人たちは。
日差しは暖かいけど、水の上はやっぱり冷える。30分も遊んでいたらすっかり冷えてしまった。まだまだ遊びたそうなじょーちゃんを促してようやく公園を出る。
さて、どうしたものか。これ以上西に行ってもつまらないので、東に向けて自転車をこぎながら考える(予想通り行き当たりばったり)。とりあえず寺にでも行っておくかと、静安寺に向かう。静安寺も確か留学当初に来たきりだから、18年ぶり? 線香を買ってお参りしたり、隣りのそごうを見学してアニエスbの値段の高さに目を回したりしているうちに、辺りはすっかり暗くなった。私はあまりおなかが空いていないのだが、じょーちゃんの腹はすでに戦闘モードに入っている模様。腹具合に合わせてメニューが選べる「香港茶餐庁」がいいかも。というわけで、錦江飯店脇にある「新旺」へ。
こちらも富春同様超混みでしばらく待たされ、ようやく空いた席に腰を下ろす。
香港独特の食文化と言える茶餐庁のメニューは、軽食から普通の料理から洋食からデザートまで、何でもありの世界だ。奇妙なものも多く、香港式メロンパン、「菠羅包(菠羅はパイナップルの意)」を温め、堅く冷やした厚切りのバターを挟んで食べる「冰火菠羅油」はネーミングからしてけったいだし、レモンの薄切りをたっぷり入れる「ホットコーラ」、ミルクティーのコーヒー割り「鴛鴦珈琲」、インスタントラーメンにランチョンミートや目玉焼きを乗せる「公仔麺」などなど、ジャンクで体に悪そうな食べ物がこれでもかとメニューを飾る。サンドイッチは好みに合わせてトーストにすることもでき、公仔麺は、「輸入の出前一丁なら3元増し」というこまやかさ。中国語が読めないじょーちゃんだが、活字の洪水に圧されて早々にメニューを放り出す。仕方がないので、チーズとハムのサンドイッチ(+トースト)、冰火菠羅油、ホットコーラを選択してやり、自分は冰火菠羅油、鴛鴦珈琲、公仔麺のハム目玉焼き乗せ輸入出前一丁バージョンをオーダー。じょーちゃんは冰火菠羅油の美味さにほれ込んで、日本に帰ってからも食べたがるのだが、理想的なパンが見つからなくて、いまだ実現に至っていない。
新旺茶餐庁 長楽路175号(ほぼ24時間営業)
腹が膨れ、幸せな気分で茶葉を買いに淮海路へ。淮海路は自転車通行禁止なので、近くの駐輪場に自転車を停め、管理費5角を支払う。頼まれものやら自家用やらの茶を買い、ふらりと入ったデパートで一番安い携帯電話を衝動買いしたりしたあと、お夜食のエッグタルトと炒りたてのギンナンを仕入れて、ホテルへ戻る。
|
|
|
 |
|
|
*1 こんな感じで、敷地内の道路も結構広い。右に見える白い建物は新築だ。
|
|
 |
|
|
*2 この家は弄堂の中では立派な部類に入る。上海の古い洋館の中では、これでも地味なほうなのだ。上の道沿いにある家はもっと小さくて質素、おまけに地盤沈下を起こしていて、玄関が20cmほど地面より低くなっていた。この家をはじめ、数軒が「文物保護建築」に指定されている。
|
|
|
 |
|
|
*3 つくりからして、どう見ても当時のものをそのまま使っているバスルーム。バスタブは今は使われていない。
|
|
|
 |
|
|
*4 春巻は上海スタンダードの白菜と豚肉。何の変哲もない組み合わせなのに、どこで食べてもおいしい。そして安い。また、この豆苗もこんなてんこ盛りで10元と、安さに涙がチョチョ切れる。そのへんの食堂なので、清潔にこだわる人には向かないが、ぜひ行っていただきたい。
|
|
|
 |
|
| *5 電動式ボートにはハンドルがついている。エンジンの開閉とハンドリングで、子供にも運転気分が味わえるのがなかなか良い。写真は運転にご満悦のじょーちゃん。「存在がギャグ」らしく、あちこちで人気者になっていたが、この日もただ立っているだけなのに、携帯売り場のオバサンたちにくすくす笑われていた。親として喜んでいいのだろうか……。 |
|
|
|
|
|
つづき→ |
|
|
| ←もどる |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|